鮮烈なビジュアル表現と、観る者それぞれの心に染み入る物語表現で、国内外の若者に絶大な影響を与えてきた新海誠。そんな次世代のアニメーション監督が二〇一三年に新たなスタッフと送り出すのは、愛に至る以前の孤独 ——。 孤悲 の物語。現代の東京を舞台に初めて「恋の物語」を描く。
梅雨の季節に日本庭園で出会った、靴職人を目指す少年と歩き方を忘れた女性。彼女が少年に残したのは一篇の万葉集。本作の題材は多様で魅力的だ。独自の感性と言葉選びにより、まるで小説を読むような味わいとテーマ性を持った繊細なドラマを、アニメーションでしか為し得ない表現で紡ぎ出す。
地雨、夕立、天気雨、豪雨…本作では心の変化や揺れそのもののような、さまざまな雨を丁寧にアニメーションで表現。新海作品の特徴でもある美しい景色はもちろんのこと、本作で出色なのが、その景色の色味や明暗を人物の陰影にまで反映させた色彩。映像から想いが、言葉から情景があふれ出す。
新海作品は耳からも染み入る。 この時代を生きる若者 を情感豊かに演じるのは、実力派声優・入野自由と花澤香菜。新鋭・KASHIWA Daisukeのピアノ曲が、言葉にはならない切ない想いを活写する。また、秦基博が本作のために大江千里の『Rain』をカバーし、普遍に届くメッセージを現代の感性で歌い上げている。
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性・ユキノと出会う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。